![ボイスドラマ「ハローミスターサンタクロース」](https://source.boomplaymusic.com/group10/M00/02/07/10f512c78603480c8c1c3e5b4ee3ad66H3000W3000_464_464.jpg)
ボイスドラマ「ハローミスターサンタクロース」 Lyrics
- Genre:Spoken Word
- Year of Release:2025
Lyrics
クリスマスを目前に控えたこの時期。
街も人もざわついている。
行き交う人はなぜか急ぎ足になり、私の心まで急かされているみたい。
急いで家に帰っても誰かが待っていてくれるわけじゃないのに。
私は、自分で言うのもなんだけど、まあまあ売れてるウェブアニメの脚本家。
高山に住んで、もうすぐ1年。
その前は東京に6年。
さらにその前の18年は・・・
生まれてから高校卒業まで、南の町で両親や兄弟と暮らしていた。
そういえば私、
暖かい町に住んでいたから寒いのは苦手だけど、
いちばん好きな季節はずうっと冬だった。
それも雪とクリスマスが大好き。
高山へきた理由も、雪がいっぱいの冬に憧れていたから。
クリスマスが近いからかしら、食料品のスーパーやお肉屋さんもすごい人。
■人混みの雑踏(古い町並)
あれ・・・
あの娘・・・
あの赤いセーターの少女、どこかで見たことあるかも・・・
お肉屋さんの前できょろきょろとなにを探しているのかしら?
ああ・・・、わかった。チキンね!
懐かしいなあ・・・
私も子どもの頃、クリスマスが近づくとパパとチキンを買いに出かけたっけ。
うちでは毎年、チキンをまるごと買ってパパがローストする。
キッチンからチキンの香ばしい香りが漂ってくると、ああクリスマスがきた!
って思えるんだ。
できあがったローストチキンを家族に切り分けるのもパパ。
いつも私のチキンが一番大きかったな・・・
やがて赤いセーターの少女が、お店から嬉しそうに出てきた。
背が高いお父さん?の手を懸命につかんでる。
そうか、あの娘もお父さんと一緒なのね。
パパも背が高かったから、ちっちゃな私は必死でしがみついてたな。ふふ。
赤いセーターの少女とお父さんの後ろを、私は歩く。
だって、方向が私のアパートと同じだったから。
2人が入っていったおうちは、瀟洒な一軒家。
そこはまるで魔法の国のように、ライトアップされている。
ゲストを迎えるスノーマンのイルミネーション。
ドアにかけられた華やかなクリスマスリース。
庭にそびえる大きな木々もみなまばゆい光でドレスアップされていた。
うちも同じだったなあ。
外壁を走っていくトナカイのそり。
何頭ものトナカイたちが足を動かしていた。
ハシゴを登って、煙突に片足を入れているサンタさん。
壁に絡まるツタも星座の形になって灯りを灯し、、
パパのこだわりで私の魚座が真ん中で煌めいていた・・・。
なんだかここ、他人の家とは思えなくて、つい庭へ足を踏み入れてしまう。
■ハイヒールの足音〜光のイメージの効果音
わあ。
あれってシャワーライトって言うのかしら。
大きなもみの木の上から、流れ星のように光の粒が降っている。
芝生の上には、花火のような光の玉がいくつも北風に揺れていた。
知らず知らず、庭の奥の方まで足が進んでいく・・・
あれ?
このシーンって、うちと同じだ。
私は家の中から見てたんだけど。
うちのライトアップは近所でも有名だったから、
12月になると見知らぬカップルたちがイルミネーションの下(もと)に集まってきた。
パパもママも庭に入ってくる男女をとがめることなく、微笑ましく眺めていたっけ。
そんな時代もあったなあ・・・
ここの家の庭からもリビングが見える。
リビングから漏れているのは・・・暖炉の灯りかな。
暖炉の前には屋内用のクリスマスツリーが小さな光を放っている。
あれ・・・
誰かが、窓の外、こちらがわに立って家の中を覗き込んでいる。
赤い服に白いあごひげ。
ああ、サンタさん・・・の格好をしたさっきのお父さんね。
いやだもう、これって・・・デジャブ?
■鈴の音
22年前のクリスマスイブ。
3歳の私は兄と一緒にサンタさんを待っていた。
2人でがんばって眠らないようにしてたんだ。
柱の影に私たちがいることも知らず
リビングの扉が静かに開き、赤い服を着たサンタさんが入ってくる。
"きた"
"しっ"
私たちがそこにいることも知らずに、
サンタさんはツリーの根もとにプレゼントを置いた。
私は思わず一歩前へ出る。
フローリング越しに伝わる物音にサンタさんが振り向く。
その瞬間白いひげが床に落ちた。
"パパ?"
一瞬、驚いた表情をしたあと、
サンタの姿をした父が私たちの元へ歩いてくる。
兄も驚きを隠せず言葉が出ない。
サンタさんの父は、いつもの穏やかな表情で私たちに声をかける。
『パパじゃないよ』
「え?」
『パパの姿をしているけど、私はサンタクロース。
イブの日とクリスマスは世界中の子どもたちのために大忙しなんだ。
だから、みんなのパパやママの体を借りて、プレゼントを届けにきているんだよ』
サンタさんは、窓をあけると私たちの方へ振り返り、
『見つかっちゃったから、このまま窓から失礼するよ。
いい子の君たちに、もうひとつプレゼントを渡してからね』
と言って出ていった。
「もうひとつ?」
窓の外には、鈴の音と笑い声が遠ざかっていく。
私たちはサンタさんを追いかけて窓の方へ走った。
開け放たれた窓から顔を出すと、イルミネーションに白い息が照らされた。
空を見上げると、小さな白いものが降ってくる。
手のひらで溶けていくその結晶は、
「雪だ・・・」
それは、雪に憧れていた3歳の私への、最高のプレゼントだった・・・
あ、いけない。
いくら何も言われないからって、ひとさまの庭にいつまでも不法侵入してちゃ。
あわてて踵を返したとき、頬に何かが触れた。
「つめたい」
雪?
22年前と同じだ。
私は降り始めた雪の中、家路を急ぐ。
楽しそうな親子を見てたからか、
家族で過ごしたクリスマスが頭の中に蘇ってくる。
みんなでおしゃべりしながら食べるのは、パパが取り分けたローストチキン。
私はソースを口の端につけて笑ってた。
それから、野菜がいっぱい入ったクリームシチュー。
チキン、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、ブロッコリー。
シチューのクリームにとろっと溶けて美味しかったなあ。
料理のあとは、クリスマスケーキ。
ケーキはいつも私のリクエストで、大好きなチョコレートケーキだった。
1つ上のお兄ちゃんはショートケーキが一番好きだったのに
私が「チョコがいい」って言うもんだから、必ずチョコレートケーキ。
でも、お兄ちゃんも
"お前が好きなケーキを僕も食べたい"
って笑って、美味しそうにチョコレートケーキを食べてた。
ケーキをカットして家族の分を取り分けるときは、
いつも私のお皿にサンタさんとプレートのチョコがのっている。
こんな、幸せな、きらきらした時間があるから、
いくつになっても私はクリスマスが好き。冬が好き。雪が好き。
白い冬の高山に住んだのも同じイメージがあったからだ。
私はあの頃のあったか〜いクリスマスを昨日のことのように思い出していた。
そうか・・・
この冬、実家に帰ろうか迷っていたけど・・・
決めた。
いますぐパパに会いたい。
そういえば、さっきの親子って・・・
いつも通っているあの場所にあんなおうちあったっけ?
イルミネーションもおうちの形もなんだか22年前のうちとそっくりじゃなかった?
あの娘とお父さんもほとんど後ろ姿しか見ていないけど、
やっぱりあれは・・・3歳の私とパパだ。
クリスマスの奇跡・・・
22年前の夜のことだって、今でも信じてる。
父の姿をしたサンタ。
サンタからのプレゼント、雪。
誰もが幸せになるのがクリスマスだから。
どんな奇跡がおこったって、それがクリスマス。
■鈴の音
メリークリスマス。
みなさんにも、素敵なクリスマスが訪れますように。