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  • Genre:Spoken Word
  • Year of Release:2025

Lyrics

「ありがとうございました。お気をつけて」


チェックアウトのお客さまを見送って、やっとひといき。

今日もたくさんのお客さまとご縁をいただいた。


ここは奥飛騨温泉郷の老舗旅館。

これでも私は若女将だ。


誰もいなくなったロビーの片隅に腰をおろし、

昨日執り行われた祖母の葬儀に思いを馳せる。


寂しくなっちゃうなあ・・・


早くに父母を亡くした私は若くして女将となり、

祖母と一緒にこの老舗旅館ののれんを守ってきた。

大丈夫。なんとかなる。


ネガティブな思いを払拭して、ポケットから古い紙包みをとりだす。

それは、昨日葬儀のあとに見つけたおばあちゃんの遺品。

紙に包まれていたのは、昔のお守りだ。


そのとき、開け放した玄関から郵便屋さんの自転車の音がした。


手渡されたのは祖母宛ての封書。

差出人は・・・?

なにも書いてない。


消印は・・・鹿児島、知覧!?

え?鹿児島?

『知覧』ってどこ?

私はすぐにスマホで調べる。


検索して一番上に出てきたのが『知覧特攻平和会館』・・・

なに?

特攻?

どういうこと?


私は躊躇なく、封を切る。

中から出てきたのは1枚の便箋と・・・


セピア色に色褪せた写真。

正確には真ん中から破られた写真の右側半分だ。

うちの旅館の前に立つ青年が1人。

いや、もともとはきっと肩を組んだ2人の青年が写っていたのだろう。

左側半分がなくなり、右側の青年だけが微笑んでいる。

青年が着ているのは・・・軍服だ・・・

このひと・・・だれ?


私は便箋に書かれた文字に目を向ける。


『拝啓・・・』


それは達筆な文字と丁寧な書き出しで始まった。


『突然のお手紙、失礼いたします。

同封した写真はこの春亡くなった父の遺品を整理していて見つけたものです。

写真は父ですが、破れた左側に写っていたのは、

きっとそちらの祖父君(そふぎみ)ではないかと思います。


父は亡くなるまで、写真のことを私たちに伝えませんでした。

ですから写真の人がどういう関係なのかさえ、今まで知らなかったのです。

初盆の準備をしているときに見つけた写真の裏側をめくって

この写真の意味が初めてわかりました。


何度となく父が私たちに語ってくれた話を聞いてください。


"あれは・・・知覧からいよいよ出撃するという日の朝だった。

最後の朝食のあと、あいつは俺を呼びつけて、こう言った。

お前に頼みがある。

もし俺たちのうち、どちらかが生き残ったら、

互いの家族に最後の言葉を伝えないか、と。

俺は答えた。

それはありえない話だろう。

お前も俺もこのあと出撃していくのだから。

あいつは口の端(は)を小さくゆがめて、

これはあくまでも、もしも、の話だ、と言った。

今日くらい、そんなもしもの未来を語ったっていいだろう。

あゝ、それもそうだな、と答える。

よし、約束だ。わかった。


やがて、出撃の時間がやってきた。

杯(さかづき)の酒を飲み干し、 その杯を地面に叩きつけて割る。

みなが、そして彼が出撃していく。

俺の零戦は、どういうわけかエンジンがかからない。

地団駄を踏む俺の横、笑顔で敬礼するあいつの機体が大空へ舞い上がっていった。


まさか、あいつ、俺の機体になにか細工を・・・

いや、そんなはずはない。

あいつの尊厳を傷つけるような言葉は断じて言ってはならない。

だが・・・"


父はいつも目に涙を浮かべてこの話をしました。

終戦後、父がそちらへ行ったのかどうかは、わかりません。

なぜなら、その友達が、どこの誰なのか、一度も父の口から聞けなかったからです。


写真のなかで父の後ろに写った旅館の名前でなんとか住所を調べることができました。

このような手紙を突然送りつける失礼をお許しください。

もし、この写真が不要でしたら、お手数ですがお焚き上げいただけませんでしょうか。

よろしくお願い申し上げます。


敬具』


しばらく言葉が出てこなかった。

写真の裏を見ると、そこには「高山へ」「命を全うすべし」という文字が書かれていた。


奇妙なタイミングに言葉が出てこないまま、送られてきた写真をテーブルに置く。


そういえばいま見てたおばあちゃんのお守りって・・・

『豊玉姫神社』・・・?

これ・・・どこのお守り?

え?鹿児島?


私は何も考えずに、お守りを開いて中身を見る。

木札と一緒に小さく丸まって入っていたのは・・・なんと写真!

これって・・・送られてきた写真の左半分だわ!


写真の裏には祖父の名前と「知覧より」「いざ生きめやも」の文字。

おじいちゃん!

2つをピタリ合わせると、軍服を着た2人の青年が肩を組み微笑んだ。

2つの文字をつなげると、

「天命をまっとうして、最後まで生きようと努力しなさい」


私は流れる涙をぬぐいもせず、祖母と2人の青年の間に結ばれた絆に思いを寄せる。


この写真のように、人の絆まで切り裂いてしまう戦争って、なんなんだろう。

やりきれない気持ちのなか、きっとあの日と変わらぬ蝉時雨が

山の中にこだましていった。

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